公開日:2024.03.08
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「2025年の崖」の先に見える光に手を伸ばせ ——レガシーシステムからの移行だけでは不十分な理由

「2025年の崖」の先に見える光に手を伸ばせ ——レガシーシステムからの移行だけでは不十分な理由

「2025年の崖」という言葉をご存知でしょうか。そしていま日本が、まさにその崖から落ちようとしていることも。

2025年の崖とは、2018年に発表された経済産業省の『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』ではじめて登場した言葉です。その内容を一言で表すならば、「2025年までにDXを果たさなければ、日本企業はやがて崖から転落するように没落していく」といったところでしょう。

「2025年」と締切がついているのは、主に(1)超高齢化社会を迎え、IT人材の不足が約43万人にまで拡大すると予想されること、(2)大手のERPのサポート終了時期が2025年前後に集中していたことが指摘されているためです。

こうした問題に対処できなければ、2025年を境に年間約12兆円にも上る経済的損失が生じるとも言われており、企業の成長ひいては日本の成長のために、ただちに対処することが望まれています。

ただ、安易に「DX=ITシステムの刷新、新規導入」と捉えると、問題の根本を解決することにはつながらない点には注意が必要です。とくにありがちな誤解が、「レガシーシステムから最新のシステムに移行すればDXできる」というものです。

レガシーシステムから移行すれば問題は解決する?

数年前と比べると、DX推進の重要性を理解している企業は着実に増えてきています。独立行政法人である情報処理推進機構が発表した『DX白書2023』によると、日本でDXに取り組んでいる企業の割合は、2021年度調査の55.8%から2022年度は69.3%に増加しています。今後もこのトレンドは加速していくと予想されます。

しかしはたして本当の意味で、日本企業のDXは進んでいるのでしょうか。

そもそもDXとは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」を略したもので、「デジタル技術を利用した変革」を意味します。この文脈でよく挙げられる手法が、既存の自社システムをクラウド等に置き換える、いわゆるレガシーシステムの刷新です。

『DXレポート』でも、レガシーシステムは2025年の崖が発生する大きな原因として挙げられており、「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化・ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっている」と書かれています。レガシーシステムのままでは、データ活用が難しくなったり、保守運用に高いコストがかかってしまったりと、DX推進の妨げになることが懸念されるため、レガシーシステムからの移行(マイグレーション)が重要とされるようになりました。

実際、レガシーシステムの存在は大きな問題であり、『DX白書2023』によると87.8%の日本企業はレガシーシステムを保有していることがわかっています。

しかし、レガシーシステムからの移行だけでは「2025年の崖」に対処すること、ひいてはDXを推進することは困難だと思われます。なぜならDXというのは、なにもデジタル技術の導入だけを意味しないからです。

DXが真にめざすのは、データを中心とした顧客への提供価値の変革や、品質向上へ向けての変革などを通して、組織そのものや企業文化が変わり、競合優位性を獲得することです。そう考えるとレガシーシステムの刷新だけで、日本のDXを進めることはできないと言えるでしょう。

日本のデジタル競争力はいつの間にか過去最低に

興味深いことに、2020年に一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が日米企業のDXを調査したところ、アメリカと日本の企業の大半は、「IT投資を増やしたい」と考えているようです。しかし、アメリカの場合は外部環境の把握にIT予算を投じる企業が多い一方で、日本は社内の業務改善を目的とする企業が多かったようです。つまりアメリカは外部に目を向けた「攻めのIT投資」が多いのに対し、日本は内側に目を向けた「守りのIT投資」が多いということです。

こうした傾向は、経済産業省が中間報告として2022年7月に発表した「DXレポート2.2」でも確認できます。このレポートによると、日本企業のIT投資は主に既存ビジネスの効率化に振り分けられており、本的な企業成長に対する投資である事業の価値向上への取り組みが不足しているといいます。つまりDX推進が「既存ビジネスの省力化、効率化」になってしまっており、その先の「新規デジタルビジネスの創出」や「既存ビジネスへのデジタル技術による付加価値向上」につながっていないということです。

結果として、IMDが毎年発表している世界デジタル競争力ランキング(World Digital Competitiveness Ranking)の2022年版で、日本は63カ国・地域中29位と過去最低になりました。なかでも「ビジネス上の俊敏性(Business Agility)」は、「国際経験」や「ビッグデータ活用・分析」と並び、調査対象の中で最下位になっています。 「2025年の崖」が近づく中で、日本のDX推進度が他の先進諸国と比べて遅れている現状が伺えます。

もちろん、レガシーシステムの刷新そのものは重要です。いわゆる古いコンピューターのサーバーからクラウドに移行することで、コストが削減され、働き方も効率化し、将来生まれうる技術的な問題も解決できるかもしれません。しかし真の意味でDX化を果たすには、その次のステップまで進む必要があります。そのキーワードとなるのが「モダナイゼーション(現代化)」です。

重要なのはシステムの「移行」ではなく「現代化」

モダナイゼーションは、一見するとマイグレーションに似ています。しかしマイグレーションが、あるホストやプラットフォームからクラウドなどの別の環境にシステムやデータを移動させるプロセスだとすると、モダナイゼーションは既存のITシステムを改善・最適化させることで、働き方やビジネスを成長させることを目的としているところに最大の違いがあります。モダナイゼーションとは、その言葉通り「システムや働き方の現代化」なのです。

ゆえにモダナイゼーションの領域はアプリケーション、データ、インフラストラクチャー、オペレーションなど多岐にわたりますが、成功させるためには以下の点を意識して、あくまでシステム起点ではなく、目的ドリブンで計画をするべきプロジェクトといえます。

ビジネスゴールを描き共有する

モダナイゼーションをするためには、対象の決定から導入する技術や手法の決定、予算・人員・スケジュールの計画、実行まで、いくつもの細かな意思決定が必要です。一貫性のある適切な判断を迅速に下すには、モダナイゼーションを行う目的を明確化しなければなりません。

マイグレーションは、明確にコスト削減への貢献度が高く、事業継続にクリティカルな影響が出るため、それ自体が目的として言語化が容易ですが、モダナイゼーションは、これに比べてコストメリットが算出しにくいものとなります。したがって、モダナイゼーションの先にあるビジネスゴールを描く必要があるのです。ビジネスゴールとはすなわち、新しいビジネスであり、顧客体験(UX)を描くことと言う事ができます。

円滑なコミュニケーションを図れるプロジェクトチーム

モダナイゼーションはシステム全体に影響を与えます。だからこそ、かならず部門横断的なコミュニケーションが必要になります。既存システムがどのように使われているか、実際に業務を担当する現場の声をヒアリングすることで、新システムの仕様や機能を正しく理解してもらい、慣れないシステムに対する混乱を防ぐよう務めるべきです。そのためにも定期的に意見聴取や情報共有の場を設け、円滑なコミュニケーションを徹底することが大切です。

特にモダナイゼーションの目的は、社内の業務改善にとどまらず、新規事業やエンドユーザ向けのサービスなど、インサイドアウトな価値を提供するため、業務システムとはステークホルダーが異なるという点を念頭に置く必要があります。

リスクを評価し対策する

モダナイゼーションはDX推進に不可欠ですが、リスクも伴います。レガシーシステムを前提として動いていたアプリケーションの操作に支障が出たり、移行過程でデータが破損する可能性なども考えられるでしょう。システム全体にどのような影響があるか、既存のシステム資産やリスク評価を必ず行い、適切な対策を講じなければなりません。

技術的な課題を計画的に解決していくためには、マイルストーンを描く事も重要です。一方で、ビジネススピードに沿うためには、いっそ独立したモダンなシステムを個別で構築する意思決定もオプションとして検討するのも良いかもしれません。

モダナイゼーションを実現するためには、これらを計画的に行う必要があります。そのためにも、現状をしっかりと可視化しゴールイメージを描くこと、そして実装するための技術的な知識や能力を見極めていく事が求められます。

究極の目的は体験価値を高めること

モダナイゼーションがうまく進めば、それに応じてプロダクトやサービスの体験価値も高まっていきます。しかし、社内のシステムや働き方をいくらモダナイゼーションしたつもりになっても、エンドユーザや社会のことがおろそかになってしまったらモダナイゼーションとは言えないでしょう。プロダクトやサービスの体験価値を、環境の変化に持続的に適応し続けられる組織体質にトランスフォーメーションするーー「2025年の崖」に対処できる企業とは、そのように表現できるのではないでしょうか。

企業によって、DXの進捗状況はさまざまです。「レガシーシステムをまだ使っている」というステージのところもあれば、「クラウドに移行はできたが、そこから先に何をすればいいのかわからない」というケースもあります。クラウドに移行した時点で満足し、さらにそこからモダナイゼーションをする動機がないというところもあるかもしれません。

それ自体は問題ではありません。最も重要なのは、「顧客体験から逆算した、モダナイゼーション計画」なのです。顧客体験、新しいビジネス価値を見定め、柔軟にシステムを最適化していく事が、2025年の崖の先にある光といえるのではないでしょうか。

体験価値を高めるために必要な、システム最適化をめざすことが必須であり、そのためにはシステムだけではなくビジネス、社内コミュニケーション、既存の資産の評価が必要なのです。あくまで目的からの逆算です。そしてこれら一連のモダナイゼーションの計画と実行は、「特定の外部のみに依頼する」だけで実現するほど簡単なことではありません。モダナイゼーションはある特定の状態を指すのではなく、常に変化していくものと捉え、複数の専門パートナーと分担をしながら、自社のITマネジメント範囲も拡大していくことが理想と考えます。ゆえに組織全体の体質改善が必要不可欠なのです。

ゆめみがお客様の「内製化」を進めていくことにこだわる理由もそこにあります。クライアント企業との関係性を、アウトソーシングの受発注関係で完結するのではなく、クライアント企業の新しい顧客体験設計を伴走することで、より豊かな社会づくりを描くとともに、日本の「2025年の崖」を乗り越えたいと考えています。そしてその先の未来もビジネスを成長させていくために、モダナイゼーションについて少しでも気付きになれば幸いです。

「一度きりのシステム開発を行う」ことが、本当にそのお客様のためになっているかといえば、私たちはノーだと考えます。伴走することで、アジャイル開発のやり方や長期的なシステムのビジョンの持ち方、顧客思考なデザインの考え方、を伝えていくーーそうすることで、お客様が長期的にセルフマネジメントできるようになると私たちは信じています。

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