2018年に経産省から「デザイン経営宣言」が発表されてから5年。その間に起きた新型コロナウイルスの流行により、ますますVUCAの時代が加速しています。そんな時代において、デザインがビジネスにもたらすインパクトはどういうものなのか。株式会社ゆめみCDO/シニアサービスデザイナーを務める野々山正章さんと、取締役/シニアサービスデザイナーの本村章さんのおふたりに、なぜ「デザイン経営」が求められるのか、話を伺いました。
目次
選択と集中はしない。全方位カバーすることがゆめみデザインチームの最大の強み
——まずはそれぞれ自己紹介をお願いします。
野々山:ゆめみには2021年の10月にシニアサービスデザイナーとして入社し、今年の7月にCDOに就任しました。
ゆめみに来る前はデザインファームに勤務していて、家電や車などの組み込みと言われる部分のユーザーインターフェースや、次世代機の提案などを行っていました。そこから、徐々に「新しいデザインを考えるための環境づくり」に携わることが増えていって。学習論としてデザインを捉えてみたらどうなるだろうと考え、プロトタイピングを軸にワークショップなどを実施するようになったことがきっかけです。
ゆめみでは、デザイン部門の組織開発に加えて、“出張CDO”という、クライアントのデザインに関する意思決定を支えたり、デザインとエンジニアリングにまたがる要件整理をしたりしながら、プロジェクトの成功に向けて一緒に走る取り組みを行っています。
本村:僕は、2019年の8月にゆめみに入社しました。野々山さんと同じくシニアサービスデザイナー兼取締役を務めています。ゆめみ独自の制度で「チャレンジ取締役」というものがあり、それに立候補をしてデザイン領域の取締役に就任しました。クライアントワークの他、野々山さんと一緒に、デザイン部門の採用や組織改善などを行っています。
ゆめみの前は、システム開発の会社でサービスデザイナーの仕事をしたり、その前はアメリカのデザインコンサルティング会社でソフトウェアのコンサルティングやハードウェアのUI設計のプロジェクトなどを担当していました。実はまだ社会人5〜6年目です。
——おふたりが入社されてから、デザイン部門にはどのような変化がありましたか?
野々山:本村が入った当時は、デザイナーの人数はまだ15〜6人ぐらいでしたが、今は50人ぐらいにはなっていますね。
人数も増えましたが、特に(本村)章さんや僕がよく考えているのが、ゆめみのデザインブランドの向上。ゆめみは開発支援も強い会社なので、その強みは生かしつつも、デザイン領域だけでも依頼がきて、しっかり価値が出せる組織にしたいんです。
0から僕たちがデザインする仕事だけではなく、例えば、今作られてるものが、本当にデザイン的に機能しているかどうかなどもレビューする。そういう仕事もどんどん作っていって、積み重ねていきたいなと。今後はどうなるかわかりませんが、今は「選択と集中」はあんまり考えていないかもしれないです。
本村:そうですね。広さはめちゃくちゃあると思います。「事業を成長させるためにデザインをどう使うのか」という問いに対して、基本的にはすべて答えられるんじゃないかな。突出した領域はないかもしれないけれども、それがある意味で、強みかもしれないですね。
表層のデザインを綺麗にするだけで本当に良いのか。最新の事例を振り返る
——ゆめみのデザイン支援はミドルアップダウン型と内製化支援と伺いました。具体的にどのようなやり方なのでしょうか。
本村:ゆめみのクライアントさんのメインの窓口は経営層でも現場担当者でもなく、事業責任者のような、クオーター単位での目標設定をし、それを実現するためにプロジェクト推進をされている、いわゆる「ミドル層」の方が多いんです。
つまり、経営層にも現場の方にもアプローチができる。その意味で、ミドルアップダウン型の支援だと言っています。その上で、外部の視点やケイパビリティを活用しながら内製のチームを作ることをサポートするのが、内製化支援。
ただ一方で、今後は“出張CDO”のようにプロダクトの責任を持つレイヤーの方々とデザイナーがタッグを組んで、一緒にロードマップを描くことが大事になってくると思っています。
野々山:前職の頃から感じていたのですが、プロダクトオーナーや事業部長レイヤーの方々が、戦略から依頼したいと思った時に、今はまだコンサルタントがそこを担うことが多い。でも、本当は上流からデザインのプロが入って、一緒に戦略から表層のデザインのところまでを併走するほうが、プロダクトにとっても良いと思うんですよね。
最近だと、大阪ガス株式会社の新規事業で”taknal”というアプリのプロジェクトに“出張CDO”として参画しました。最初のローンチからしばらく経っての、メジャーアップデートが支援の概要だったのですが、「アプリの見た目をよくするだけではダメですよね」って話をさせてもらって。
アプリを通してやりたいことや目指したい世界などを一緒に掘り出して、デザイナーやエンジニアに共有しながらロードマップを引き、プロジェクトを進めていきました。そのなかで、あらためてビジョンに立ち返る取り組みなども行っています。そのおかげか、すごくいい信頼関係を構築させてもらっています。
大阪ガスが仕掛ける新規事業創造プログラムから誕生!本との出会い創出アプリ「taknal」の軌跡 | SELECK [セレック]
楽しく失敗することに価値を見出せるかが、これからの経営には必要
——お話を伺っていると、この世の中のどのプロジェクトにも“出張CDO”が必須に感じてきますね。おふたりが考える、デザインと経営の関係ってどのようなものですか。
本村:難しいですね……最近思うのは、デザインと経営って結構似ているなと。お互い、何らかのマネジメントに関わっているんですよね。デザインだと、あるサービスやプロダクトが息長く、心地よく使ってもらうために、体制を作ったり、改善のサポートをするし、ビジネスのマネジメントにおいては、会社が持続的に成立するために、何を改善すべきかを考える。
思考の仕方自体はすごく似ていると思うんですよね。じゃあ何が違うのかというと、課題に対する解決のアプローチが少しだけ違うんです。デザイナーの思考は、いろんな制約を楽しく紐解いていくことが多いので、その意味でデザイナーがビジネスに関わることで起きる変化は大きいと思います。
野々山:事業を進めるためには、“計画の知”と“実践の知”があり、1900年代の前半から60〜70年代頃までは実践の知だったと思うんです。例えば、昭和初期の家電など見ると、面白い製品がたくさんありますよね。あれらは全部「やってみなきゃ分からないから、やってみた」“実践の知”だった。そこから、少しずつ失敗が許されなくなっていき、ノウハウやスケジュールといった“計画の知”の重要度が増していったのが、今だと思うんです。
今では、iPhoneやiPadといったApple製品のインターフェースの素晴らしさなどが語られていますが、日本のメーカーも、iPhoneなどが発売されるよりも前から同じような製品をたくさん考えていたんです。だけど結果的にはApple製品ほど成功しなかった。そういう景色を新人の頃からずっと見てきて、やっぱり世界を変えるには実践の意思がとても重要だと思うようになって。
VUCAの時代になり、コロナ禍も経験した僕らが取り戻さないといけないものが、おそらく“実践の知”なんだと思うんです。そこでデザイナーが必要になってくる。例えば、プロトタイプって、初めからうまくいくものではないですよね。試しに作ってみて、失敗して、なぜ失敗したのかを分析して……と失敗することに価値を見出せるのがデザイナーの思考だと思うんです。そういうデザイン思考こそ、経営には必要なのではないでしょうか。
——確かに、Appleが「やってみよう」って世に出さなければ、私たちがスマートフォンを使うことはなかったかもしれないですね。
野々山:ただ「やってみた」ではなく、先ほど章さんが言ってくれたように、「楽しそうにやる」ということがすごく大事なんです。楽しそうにやらないと、 うまく失敗できないじゃないですか(笑)。「失敗をするのが楽しい」状況を生み出せるような組織設計になっていないといけないと思います。「楽しそう」っていうことが、デザインが根源的に持ってる価値なのかな。
本村:当たり前ですが、みんながデザイナーになる必要はなくて。ただ、デザイナーのように楽しいマインドで仕事をする人が増えていったらいいなと思いますね。そのマインドをいろんな組織にインストールすることが、これからのデザイナーの役割にもなっていくんじゃないかと。なので、繰り返しになりますが、僕たちが提供できる価値は、デザインのマインドをちゃんと組織・チームに根付かせて、プロジェクトが終わった後も、そのマインドを持った人が自走できるようになることだと思っています。
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